労務管理は「100点でなければ0点に等しい」
良く言われることですが、我々弁護士は、「事後的な」関与となることがほとんどです。
お金を貸したが返してくれない(お金を借りたが返せなくなった)、
工事をしたが代金を払ってくれない(工事をしてもらったが代金を払いたくない)、
離婚をしたが子供に会わせてもらえない(離婚をしたが子供を会わせたくない)、
交通事故を起こしてしまった、内容証明郵便が送られてきた、裁判を起こされた、等々、
我々の許に寄せられる相談は、「起こってしまったこと」ばかりと言っても良いほどです。
事前に予知出来ない交通事故の様に、事後的な関与となることは仕方がないものもあるのですが、
中には、起こってしまって事後的な関与となってしまったらほぼ手遅れ、となるものもあります。
そしてその一つが、今回のタイトルになっている、労務管理に関わる事件。
これはたとえば、労務管理をする側である会社が従業員から未払残業代の請求をされたケースを
考えてもらえば分かりやすいと思いますが、全く根拠のない的外れな主張をされている場合はともかく、
そういった主張が客観的に裏付けられるものであれば、
請求された時点で会社が支払をしなければならないとの結論は既に見えているのです。
そうです。
不十分な就業規則、不十分な給与規程、不十分な労働条件通知書・労働契約書、
不十分な出勤簿、いわゆる「36協定」の未締結等々、すべきことが出来ていない場合、
雇用する側に相当不利な状況となるのは明らかなのです。
「裁判所から、こないだ円満に退職したAさんが起こした労働審判の書類が届きました」という
相談を受けることがありますが、この段階で出来ることはごくごく限られていることがほとんどです。
もちろん、雇用する側にも言い分があることがほとんどですし、
これを伺うと、うんうん分かります、と相づちを打つ言い分であることがほとんどなのですが、
その大抵は、紛争の要点からは外れた「事情」にとどまり、Aさんの請求を否定する要因とはならないのです。
私は、こういった類の事件の勝敗は、事前の労務管理次第だと思っています。
そして、労務管理は、感覚的には、「100点でなければ0点に等しい」と思っています。
100点の労務管理をやれているところは、従業員から何らかの請求をされることがそもそもないか、
されたところでその請求等が認められることはない一方、
100点ではない労務管理をしているところは、従業員から何らかの請求をされた時点で
負けを覚悟しなければならないのです。
そうであるならば、コストのかかる話ではありますが、弁護士や社会保険労務士の手を借りて、
普段から100点の労務管理をした方がリスク回避の観点からは賢明であり、
結果的にトラブルを未然に防げるので、コスト削減につながると思うのですが、いかがでしょうか。
(石原)